報道できなかった自衛隊イラク従軍記

自衛隊イラク派遣に、通訳として従軍した「民間人」ジャーナリストによる従軍記。異文化こーディーネーターの役割を果たすべく参加した著者の同行は、当時は公にされていなかった。政府専用機でクウェートに向かう。連合軍の一員として誇りを持つように、というオリエンテーション。

サマワは部族社会だ。土地の利用、雇用も部族との交渉が必要になり、筆者は部族の関係をチャートにして説明する。水道の整備に対する要望は、住民と自衛隊では食い違う。住民のストレスにどうやって対処するか?アラブ文化の視点から、筆者は解決策を考える‥。

同行していることもあって、食事事情やキャンプの様子が興味深い。米軍のキャンプは、砂漠の中にネットカフェやチャペルまで作ってしまう。戦闘糧食も、実戦経験のある米国と日本では違うようだ。テント生活で心身ともに限界ぎりぎりの隊員達。心身のケアのために、衛星電話をかけることが義務付けられる。

一貫しているのは、日本人の考え方と、アラブ人の考え方の違い、そしてその橋渡しになろうとする筆者の姿勢だ。。客をもてなすアラブ人にお土産を持っていくのは侮辱になるのか、それとも受け入れられるのか?交渉の時間は延ばすべきか、できることを明示して取捨選択すべきか?心身ともにぎりぎりの状態で意思決定をしなければならなかった現場のつらさが伝わってくる本だった。


報道できなかった自衛隊イラク従軍記

  • 著:金子 貴一
  • 出版社:学研
  • 定価:1890円
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