学者のウソ

この一冊の本を、著者の志向抜きで、データの読み方を問う本と、著者の志向ばりばりで社会としてのバランスを取ろうという本に分けてもらったらよかったかもしれない。

タイトルにかなり期待して読み始めた。筆者は博士号を持つ大学講師。昨今のヤラセ番組や報道に対してどんな切り口で書いてくるのか。序章から理路整然とした文章で、隙がない。

住基ネットの事例で、専門バカに陥りがちな学者の弱点を暴きだすのは、見事な論理展開だ。ゆとり教育への視点も、言い訳論ではなく、アウトカムはどうだったのかを問うものであり、読んでいて気持ちがよい。続く二章は、自然科学と社会科学の方法論と限界について整理している。特に社会科学の事例に対する扱いの難しさは、よく書いてくれたと思う。対象を観察し、分析することで、対象そのものを変化させてしまうリスクは必ず伴う。

‥だが‥これ以上は、読まなければよかった、と思った。結論から言えば、面白いと思って読めたのは、1章のみであった。個人的には、最初と最後の章だけを読んだ方が後味がよいのではないかと思う。中の2章は、名の売れた研究者の批判、特に社会科学者、フェミニズム、左翼と筆者がレッテルを貼り、批判し続ける内容だ。だいぶ個人的な考え方や志向が強く出ているので、何がウソなのか、視点の中立性は保てない印象だ。男女共同参画に関しては、データの紹介にとどまらなかったことが、却ってこの本の主張を弱めているし、ポストモダンに「左翼」というまた使うのが難しい言葉を貼るのも、恣意的ですな。このことについては、あとがきで述べられているが、単に言い訳にしか読めないので、まさに蛇足と言えよう。論理的な文章を書く人だけに、残念。



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